土地の売却で境界測量・確定測量は必要なのか

自分が所有している不動産(特に戸建てや土地)を他人に売る場合、自分で測量費を負担して測量をしないといけないのでしょうか?

結論としては、物件によりますが都心部など密集した土地ではほぼ必須と考えた方がいいでしょう。

測量費用はかなりの額がかかりますし、不動産を日常的に売買していない一般の売主の方にとって当然の疑問です。不動産の売主にとって測量費用はできれば支払いたくない費用です。

では土地を売却したいとき売主はどうすべきなのでしょうか。

まずは、土地のみ、または土地付き戸建を売却する場合を考えてみましょう。

測量には「境界確定測量」と「現況測量」がある

測量とは、対象の土地の境界線を明確にするための作業です。

他にも「現況測量」がありますが、不動産売買の時の測量は、ほとんどが「境界確定測量」のことを指します。

つまり、不動産を売買した後に隣地の人と境界のことでトラブルにならないよう、予め境界線を明確にして隣地の人との合意を得ることを目的に、測量の必要が出てくるということです。

法律上の義務があるのか?

不動産の売買時には、売主にも買主にも、土地を測量をする義務があるとかどちらかが負担すべきだ、という法律上のルールがあるわけではありません。

都心部など密集した土地では、ほぼ必須

確定測量が行われていなければ、隣地との境界のトラブルが起こる可能性を含んでおり、売買時に測量を行うことを条件にされることケースが多いです。

というのも、場所によっては数㎡の差で数十万~数百万の時価の差になることがあるためです。

逆に、地方の広大な土地では、測量を必須としない場合もあります。

上記の通り、法律によって定められているわけではありませんので、売主と買主が合意すれば測量せずに売買することもあります。

測量せずに売買をすることを「公簿売買」(登記簿謄本上の面積を売買対象とすること)といいます。

測量されていた方が売買には有利

土地の売買では、実務上確定測量図があると買い手にとっては、大変安心です隣地との境界が確定していて、将来紛争が起きる可能性が低く、またどの程度の大きさの建物が立つのかが明確だからです。

ですから、不動産仲介業者はもしまだ確定測量図がない場合は、土地売買をスムーズに成立させるために、売主に対してまず隣地との境界を確認して測量図を作成することを勧めます。

一般的にはどうなのか?

一般的に、といっても上記の通り都心部と地方で異なりますが、土地の価格が高く密集した土地でなければ「公簿売買」とすることが多いです。

ただし、中心地、特に東京都内などでは測量をすることが、ほぼ当たり前と考えた方がいいでしょう。

一般的な契約書の雛形の例

一般的な不動産の売買契約書の雛形である、「FRK(一般社団法人「不動産流通経営協会」)の売買契約書標準書式」には、次のように記載されています。

(売買対象面積,測量·代金清算)
第4条
売主、買主は、本物件の売買対象面積を、建物については表記(注:最初に不動産の表示が記載されています)面積とし、土地については測量によって得られた面積とします。ただし、売主は、測量の結果得られた面積と登記簿記載の面積とに差異が生じたとしても地籍更生登記は行いません。
2 売主は、買主に対し、残代金支払日までにその責任と負担において、隣地所有者等との立会を得て、資格ある者の測量によって作製された土地の測量図を交付します。なお、同測量図には、表記清算の対象となる土地(以下「清算対象土地」という。)の範囲およびその測量面積も記載することとします。
3 (略)
4 売主、買主は、第2項の測量の結果得られた清算対象土地の面積と表記清算基準面積とに差異があるとき、売買代金清算に関する覚書を締結して、残代金支払日に表記清算単価により売買代金を清算します。
(境界の明示)
第5条
売主は、買主に対し、残代金支払日までに、土地につき現地にて境界標を指示して境界を明示します。なお、境界標がないとき、売主は、買主に対し、その責任と負担において、新たに境界標を設置して境界を明示します。(以下略)

参考:https://www.frk.or.jp/guide/files/b04.pdf

FRKというのは国交省の意を受けて日本の代表的な建設・不動産会社が多数参加して設立された団体で、日本の大手企業の不動産の取引はこの契約書の雛形に沿って行われることが多いのです。

そして、FRKの雛形は、ものすごくアバウトに言いますと、ほっておくと売主も買主も自分の権利ばかり主張して売買条件がなかなか合意できないだろうから、それを避けて不動産の流通を円滑にするために、あらかじめ「(特殊な事情がない限り)世の中の一般的にはこれがいいと思いますからこれでやったらいかがですか」という意味合いで作られているものです。

なお、第4条第1項の「ただし、売主は、測量の結果得られた面積と登記簿記載の面積とに差異が生じたとしても地籍更生登記は行いません」というのは、地籍更正(土地面積の修正)の登記には費用がかかりますので「売主としては登記された面積と実測の面積が異なっていても土地の代金さえ全額いただければ問題ありません。

 

必要があれば買主がしてください」という意味です。

測量が必要な理由

測量が必要な理由は主に下記の2つです。

登記簿(公簿)の面積は正確でないことが多い

土地の面積は登記簿に記載されていますが、登記簿謄本上の面積は正確でないことがあります。

土地の実測面積は将来、買主がその土地上に建物を建てる時に容積率規制(土地面積の何%までなら建物を建てて良いという都市計画法上の規制)で建物の床面積の上限が規制されるために非常に重要な数値です。

容積率オーバーの建物は計画しても建築許可が下りませんし、仮に建てても検査済証を交付してもらえません。面積が少し変われば、資産としての価値は大きく変わります。

 

そのため、正確な面積を確認するために測量が必要になる、ということです。

将来、紛争やトラブルにならないようにするため

測量は基本的に隣地との境界点を直線または曲線で結んだエリアの面積を測定するわけですが、この境界点と境界線が曖昧なままだと、買主は将来、隣地との紛争に巻き込まれたり、隣地の所有者が主張して自分では思っていたよりも境界線を内側に引き直しせざるを得なくなり、結果的に土地面積が狭くなるリスクがあります。

 

そのため、売買時に測量によって実測面積を明確に把握し、公簿ではなく最終的には測量図に従って精算することによって、買主売主双方とも納得できるケースが多いのです。

もし、公簿だけを基準にしていると、買主は「思っていたよりも面積が小さくなるかもしれないから、用心して売主に対して土地代金総額として少なめに提示しよう」と思うかもしれません。

測量で行うべきこと、測量の役割

測量で行うべきことは以下の2つです。

測量で行うこと
  1. 隣地の所有者に立ち合い確認をしてもらうこと
  2. 杭を復元して境界を明確にすること

①隣地の所有者に立ち会ってもらう

測量と言っても、たまに町で見かける制服を来て黄色い機器類をのぞき込むことだけが土地家屋調査士が行う仕事ではありません。

もしまだ、境界確定が済んでいない場合は、それと同時に行うべき境界確定が重要な仕事です。

境界を確定するには売買の対象となる土地の全ての隣地の所有者に立ち会ってもらい、境界標と境界線に同意してもらわなければなりません

最終的に図面を作成して、双方が実際に印鑑を押して持ち合います。

隣地所有者が遠隔地にいる場合もありますし、もともと売主との仲が悪くどうしても同意してもらえないこともあります。

②杭を復元する

境界標が無くなっていたりずれていたりすると、復元しなければなりません。

「悔いを残すな杭残せ」とも言われており、人が亡くなっても杭(境界標)が残っていれば権利は明らかで相続人が困ることはないわけですね。

補足:土地の一部分のみを売却する場合も測量が必要

もし、土地の一部だけ売却する場合は、共有するのでなければ、土地の分筆を行わなければなりません。

公図を見ればわかりますが、土地は通常は様々な面積で、ケーキを切るように切ってあり、その一つの単位を「筆」と言います。

1筆を2筆以上に分割するわけです。この場合、測量は必須となります。

測量費用ってどのくらい?どこに誰が頼むの?

測量業務は土地家屋調査士も測量士も行えますが、境界の確定や分筆の登記は土地家屋調査士しか行えません。

ここでは土地家屋調査士に依頼するイメージで書きます。

土地家屋調査士の仕事

土地の測量を行う時の土地家屋調査士の流れは以下のようになります。

資料調査及び事前調査

  1. 公簿類など各種図面調査
  2. 隣接地権者の所有権調査

測量業務

  1. 現地測量
  2. 境界点検証
  3. 復元境界標設置

書類作成

  1. 不動産調査報告書作成
  2. 確定測量図など作成

民地境界立会い業務

  1. 民地境界立会い
  2. 境界確認書取り交し その他

 

おおよそは上記のように進んでいきます。

測量費用の目安

前記の仕事を業務別にまとめた時の費用の目安は下記の通りです。

境界確定測量業務

一般的な戸建住宅の場合でも、30万円以上かかる模様です。

難易度、面積にもよりますので広い土地の場合、百万円以上かかる場合もあり、土地家屋調査士自身も実際取り組んでみないとなんともわからないようです。

現況測量業務

一般的な戸建住宅の場合10〜15万円程度のようです。

別途同程度の費用で越境物も調べます。

 

越境(売主が越境している場合)、被越境(隣地地権者に越境されている場合)共に「すぐに(または将来〔建て替え時などに〕)越境状態を解消します」という覚書を隣地地権者と締結することになります。

測量は誰が依頼するのか?

この点がまさに問題ですね。

基本的にどちらが行うというのは決まっておらず、双方の協議によって決まります。

ただし、売買が実行される前に買い手から依頼することはまずないでしょう。

 

したがって、予め売主が測量を行うか、売買契約決定後に買主の責任と負担において実行することになるようです。

マンションの区分所有権の売却の場合

マンションを売却する場合は建物と敷地権を売却することになります。

敷地権はマンションの立っている土地の面積の持分割合を示したものですから、問題になるのはマンション一棟が立っている土地全体の面積の測量や境界の確定をもう一度やるか、ということになります。

 

これは特別な理由がない限り、測量を行う必要はないでしょう。通常、マンションを建てる時にすでに隣地との境界は確定し、確定測量図によって建築許可が下りているからです。

不動産売却時の測量のまとめ

あなたが、土地を売りたい、しかもなるべく高く売りたい、そして買主との合意に早く到達したいと思うなら、そのような義務はないのですが、売主として境界の確定、境界標の確定も含め測量費用をご負担されることが契約締結までスムーズに交渉が進む一助となるでしょう。

 

そして売買契約ではその測量費用も上乗せした土地売買金額を(明示するしないは自由ですが)買い手に要求すれば良いと思います。

例外もある

しかし、あなたの土地が銀座や青山の一等地など非常に希少なケースなどでは、買い手は測量費用を負担してでもその土地が欲しいという可能性があります。

それどころか、一部だけなら境界は確定してなくても良いから欲しいとさえいうことがあります。

その時は、売買の条件として測量や境界確定は買い手負担という条件をつければいいのです。と言いますのも土地の売買においては売主が強いからです。

買主がその条件は嫌だといえば売主はその相手に売らなければいいだけの話です。

 

ですから、非常に少ないケースではありますが、売主があくまで公簿売買を主張し、売主は測量はしないと貫き通しても良いケースもあると思います。

立ち合いは売主が行う必要がある

ですがその場合でも、売買が完了するまでは、実務上、隣地の所有者と境界の立会いを求める行為は買主に任せてはいけません。

その土地の所有者は土地を引き渡すまではあくまで売主であって、今までの隣地の所有者とのやりとりを誰よりも詳しく知っているはずだからです。

 

また、買主候補者が「もう売主は売却に合意した」と勘違いして売買交渉上強気に出てきたりする可能性があります。

更に、買主が隣地の所有者と境界を確認して測量した結果、土地面積が小さくなった場合、売主としては納得できないということもありえます。

ですから、仮に、公簿売買と測量費用を買主負担にするということに買主が合意したとしても、現実的には売買が完了するまでは買主にも境界確定作業を始めたり、測量をしたりすることは禁じる方が良いでしょう。

公簿売買を選択した方がいい場合とは

なお、お売りになりたい土地が非常に広い場合は、測量費が高くなりますので、測量をせずに公簿売買を選択する方が良いこともあるでしょう。

その他注意すべきこと

測量において注意すべきことは費用負担です。
土地家屋調査士が測量に取り掛かって資料を集め、隣地の人に挨拶に行き、境界にも立ち会ってもらい合意を取った。その後測量も行った。そしてその結果を資料を整え確定測量図にまとめていたとします。

ところが、その後、肝心の売買契約が話がうまく行かなくなり契約自体がなくなった場合、誰が測量と境界確定の費用負担すべきなのでしょうか。

仲介業者?それとも売主?まさか、元の買主候補者?この場合、測量業務請負契約に何と書かれているかによります。

最初が肝心です。このような場合も最初から想定しておきましょう。

不動産仲介会社が仲介に入っている場合は、仲介会社主導でリスクのないように取り決めをしてくれると思いますが、売主買主ともに入念にチェックが必要です。

それでもこのようなことに巻き込まれた場合は、売主側に引き続きこの土地を売却する意思があるならば、後に売却する時にもこの境界線の確定した確定測量図は活用できるわけですから売主が費用負担することがスマートだと思います。

 

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