不動産を売却するとき、ローンはいつ返済するべきなのか?

自分が居住しているマンションや一戸建ての不動産をお持ちの方で近い将来その売却を考えている場合、付随する住宅ローン残高をどう処理するのか気になる方も多いと思います。

売却に併せて全て返済するのか、売却検討中の段階で一部繰上げ返済すべきなのか。以下にご説明していきたいと思います。

売却するときは「抵当権の抹消」が必要

住宅を売却するときは抵当権抹消が必要家を売る時にまだローンが残っている場合、そのローンはどうすればいいのでしょうか?

売却時の住宅ローン繰上げ返済について解説ほとんどの方は金融機関からお金を借りて不動産を購入していると思いますが、借入時には必ず抵当権が設定されます。

まずは基本的な単語の意味から見ていきましょう。

忘れてはならない抵当権抹消

抵当権とは、住宅ローン返済不能となった場合にローンの対象となる土地や建物を担保とする権利のことです。

債権者である借入先金融機関が抵当権を設定する立場にあり、これにより金融機関は住宅ローンが回収不能に陥ることを防ぐことができます。

この抵当権を抹消するには、売却する不動産を引き渡すまでに住宅ローンを完済する必要があります。

もちろん自己資金で事前に返済できる方はそれでも構いませんが、多くの方は売却代金で支払うことになると思います。これが不動産売却時の住宅ローン一括返済(一括弁済)です。

返済手続きの流れ

具体的に返済の流れについてご説明します。
不動産売買の実際の取引の場では、資金決済と抵当権の抹消がほとんど同時に行われます。
すなわち、買い手から購入代金が売り手に支払われると、売り手は同日に住宅ローンを完済して抵当権を抹消します。

取引の場では不動産仲介業者、銀行の担当者等が各種手続きを行ってくれますので、当事者である売り手と買い手はそれを確認しつつ同席することになります。
全体としては下記のような順序になります。

  1. 買い手から売り手の口座へ代金入金
  2. 売り手は借入先銀行に残債返済のための入金をする
  3. 買い手が業務委託した司法書士が登記関連書類を受け取って売買取引完了
  4. 司法書士は同日、抵当権抹消、所有権移転の登記をする
  5. 後日、司法書士から登記完了証が送付される

    売主自身も注意が必要

    各種手続きは専門家達がイニシアチブをとって進めてくれますが、当然ながら売り手としても売却するにあたって注意すべき点がいくつかあります。

    売買代金でローンは全額返済できる?

    まず、売却価格と住宅ローン残高のバランスです。

    売却想定価格がローン残高より高い相場の時期に売却活動を始めるべきですが、ローン残高より売却価格が低い場合は、その差額を自己資金で充当しないと売買取引において決済できず抵当権も抹消できません。

    従って手元に資金が不足している場合は、何らかの方法で資金調達しないと売却は不可能という状況になります。

    売却時に経費がかかることも忘れずに!

    また、売却価格と住宅ローン残高の差額を考える上で忘れてはいけないのが、売却にかかる諸費用です。具体的には、不動産仲介手数料、登記費用、印紙代などがありますが、一番大きいのが不動産仲介手数料です。業者によって若干違いがある場合がありますが、概して売却価格×3%+6万円+消費税となっていますので、少なくともこれだけは算入の対象としておいた方がいいと思います。

    他に抵当権が設定されていないかも要チェック

    もう一点注意が必要なのは、対象となる不動産が他に抵当権を設定している場合です。例えば、銀行からの住宅担保ローンなどがあたります。自分の不動産を担保にして銀行でカードローンなどを契約すると、比較的低い借入金利が設定されるので使いやすい商品ですが、担保に入れているということは抵当権が設定されていることになり、これは不動産の売却前に解約して抵当権を抹消しておかなければなりません。必ずその金融機関に申し出て解約をしておきましょう。

    抵当権の確認と、売買代金でローン残金を賄えるかが重要

    不動産売却時の住宅ローン一括返済は、他の抵当権の存在の有無を確認しつつ、残債と売却価格のバランスを確認しながら行うのが望ましいです。売買取引の場で円滑に決済および抵当権の抹消ができるよう事前に不動産仲介業者や銀行とよく相談しておきましょう。

    繰り上げ返済をした方がおトクなのか?

    一方で将来不動産を売却することを考えている場合、それまでに住宅ローンは繰上げ返済していくべきなのでしょうか、それとも必要ないのでしょうか。ここではその点について解説したいと思います。

    繰上げ返済の経済効果

    繰上げ返済をした場合、その額は元本の減額に充てられるのでその元本分に相当する将来の利息を節約することができます。ただし、住宅ローンというものは世の中で一番金利が低い借入金と思っていいと思います。昨今のように借入金利が非常に低い状況下では、そのような低金利借入の恩恵は魅力的であり、繰上げ返済をして手元資金を減らすことで、その手元資金を使って他の金融商品で運用できていたかも知れない機会利益を失うことにもなります。繰上げ返済のそのような経済効果を勘案しつつ、不動産売却検討中の住宅ローン繰上げ返済のメリットとデメリットを見ていきましょう。

    繰り上げ返済をすることのメリット

    繰り上げ返済行うことによるメリットは主に以下の通りです。

    繰上げ返済を増やせば増やすほど、住宅ローン残高と売却想定価格との差が広がり、当該価格の設定を考える際に楽になる
    繰上げ返済した元本の分だけ利息負担を軽減できる
    繰上げ返済により住宅ローン残高を完済できた場合は、売却手続き前に抵当権抹消が可能なので、売却時の決済が円滑に進む
    そもそも住宅ローン残高が減るということは個人の財務状況が健全化する

    繰り上げ返済のデメリット

    それでは、逆にデメリットはどのようなところなのでしょうか?
    手元から相当程度の資金が流出することで、事故や病気など緊急事態などの際のキャッシュフローに不安が出る可能性がある
    団体信用保険との関係がなくなり、借り手本人に万が一の事があった場合に住宅ローンが免除になるなどの保障をする保険が無くなることになる
    住宅ローン減税の効果が無くなる可能性がある(住宅ローン減税は、ローン残高に応じて毎年税還付される仕組みなので、繰上げ返済をするとその効果を享受できなくなる可能性がある)
    昨今の借入金利の低下状況下、繰上げ返済をする事でその手元資金を使って他の金融商品で運用できていたかも知れない機会利益を失うことにもなる

    「いつ」売却をするかがポイントになる

    不動産売却を検討中の繰上げ返済はした方がいいのか、しない方がいいのかは上記のようなメリット、デメリットを理解した上で現在の自分の財務状況や金利情勢、不動産の相場などを総合的に勘案して決めないといけないということです。その際、一つの目安として「いつ」売却をするのかによって方向性は決まりそうです。

    こんな人は繰り上げ返済をすべき

    近々に売却したい場合は、手元資金に余裕があれば繰上げ返済をすべき!
    前述の通り、売却想定価格とローン残高の差が広がるほど、価格設定の際に楽になります。売却活動が始まると、需給関係や経済環境などの影響でやむを得ず途中で価格を下げないといけない場面も考えられます。そういう時に、繰上げ返済をしていたおかげで価格を下げることが可能になることがあるのです。そうすれば相場が下がる前に短期決着をつけることができます。

    数年先の売却予定の人は焦らずに

    数年先に売却したい場合は、市場環境を見極めて繰上げ返済を検討!
    これも前述の通り、手元資金が減るのは大きなリスクであり、売却まで時間があるのであればそのリスクは常について回ることになります。住宅ローン減税や団体信用保険の効果を失ってまで急いで繰上げ返済する必要もないでしょう。ただし、売却まで時間が長ければ長いほど、経済情勢、金融市場も動く可能性が高まり、金利上昇局面では借入金利が固定金利か変動金利かによって早めに返済を進めることが望ましくなってきます。市場環境を見て決めていくことが肝要です。