任意売却をどのように進めれればよいかを徹底解説
「任意売却」と「競売」の違いはわかりますか?
一般的に、任意売却の方が債務者にとってはメリットが大きいと言われています。
ここでは、任意売却のことを詳しく解説していきます。
そもそも任意売却って何?
任意売却とは「住宅ローンが払えないとき、自ら任意売却を住宅ローンの借り手がローンの貸し手に申し出ることによって、競売手続きを待ってもらいながら、できるだけ高く、通常の売却と同じように家を売ること」です。
返済が苦しい時はまず返済期間の相談
病気、離婚、リストラなどで、ローンを組んで住宅購入した時の想定と違った状況に見舞われてしまい、住宅ローン返済が苦しくなり滞納が続いてしまうことがあります。
住宅ローンの返済が苦しい時にはどうすればいいでしょうか?
まず、ローンの貸し手、債権者にリスケジュール(リスケ)をお願いすることが考えられます。
返済期間を延ばしてもらうわけですね。
それでも返済できないとどうなるか
しかし、返済期間を伸ばすだけでは対応が十分ではなく、滞納が続いてしまう場合はどうなるのでしょうか。
残念ではありますが、ローンの貸し手は差押えをした後、競売の手続きに入ることになります。
競売によってローンの借り手は住宅を手離すだけでなく、明け渡しが必須ということになります。
任意売却はその競売を回避する手続きなのです。
任意売却が通常の売却と異なる点は2点です
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- 住宅ローンが滞納となっていること
- 売却時に住宅ローンを完済できないこと
任意売却の特徴
競売との違いは何なのでしょうか?任意売却の特徴を解説します。
競売より高値で売却できる
通常の不動産取引として売買されるため、一般的に競売より高値で売却できることが期待され、住宅ローンの借り手(住宅ローン債務者)の負債の縮減につながります(競売価格は市場価額の50~60%といわれています)。
任意売却の場合、一般市場で時価で売却できるため、競売の3〜4割増しの価格で売却が可能です。その分、売却後の残債が少なくなります。
現金負担が減る場合がある
ローン債務者の状況により売却代金から不動産仲介手数料、抹消登記費用等を控除できる場合があり、また、残債務の状況等により延滞損害金減額の相談に応じられる場合もあります。
引渡し時期が調整しやすい
裁判所による手続である競売と比べると、自宅の引渡時期についての調整がしやすく、自宅退去後の生活設計が立てやすくなります。
買い手によっては賃料を払ってもらえばそのまま住んでいてもいいという場合もあります(リースバックと言います)。
これに対して、競売の場合は、転売を考える業者が落札することが多いため、落札後は直ちに退去を求められることになると思っていた方が良いでしょう。
返済計画を相談できる場合がある
任意売却による返済金が債権額に満たない場合(そもそも債権額を超える売却は「任意売却」でなく「普通の売却」です)、破産免責となっている人を除き、残債務の返済義務は残りますが、任意売却後の返済計画は、返済状況等を踏まえた金融機関との話合いによって、返済可能な金額を決定していくこと(債務額を減額したり、支払いを延長したりするなど)ができます。
任意売却の流れ
代表的な住宅ローンの貸し手である、住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)の任意売却の流れを見てみましょう。
他の金融機関もおおよそ同じような流れとなります。
「任意売却に関する申出書」の提出
住宅ローン債務者が任意売却を決意した時は「任意売却に関する申出書」を機構に提出します。
仲介業者は原則として住宅ローン債務者が自ら選定します。
物件調査・価格査定
仲介業者が物件調査を実施した上で価格査定書と関連書類を作成し、住宅金融支援機構に提出します
売出価格の確認
住宅金融支援機構が査定価格を確認の上、売出価格を通知します。機構が債権回収業者に業務を委託する場合は、売出価格の確認と通知は債権回収会社が行います。
媒介契約の締結
機構から売出価格を通知した後、住宅所有者と仲介業者との間で専任媒介契約または専属専任媒介契約を締結します
販売活動
販売活動では仲介業者の協力が必要です。
- 少しでも高値で売却するため、仲介業者は営業努力をすると共に、所有者も室内の清掃・整理整頓を行い内覧がスムーズに行くように協力します。
- 仲介業者は「販売活動状況報告書」を月1回機構に提出します
- 利害関係人との調整
仲介業者は、販売活動と並行して、抵当権等の抹消条件について、住宅ローン債権者と共に利害関係人(差押債権者・後順位抵当権権者)に確認します。
抵当権抹消応諾の審査
購入希望者が現れた時、仲介業者は機構に通知し必要書類を送付します。
機構は抵当権抹消の可否について審査します。
売買契約の締結
機構が抵当権抹消を承諾した後、仲介業者は、売主と購入希望者との間で売買契約を締結します。止むを得ず、契約締結が機構の承諾前になる時は、必ず特約条項で機構の承諾を停止条件とします。
代金決済・抵当権抹消
仲介業者は、機構の抵当権抹消関係書類作成の準備のため、遅くとも決済日の2週間前までに「代金決済予定日等の報告書」を機構に送付します。
任意売却はいつ決めなければいけないのか
上では住宅金融支援機構の任意売却の流れを説明しましたが、ここでは、機構も含めて一般的にローンを滞納した場合を説明します。
任意売却を決断を迫られるまでの流れ
ローン返済の滞納が続きますと通常でしたら競売の手続きに入るところですが、競売を避けるためには、いつ任意売却の申し出をすればいいのかを説明します。
- ローン滞納から1~3ヶ月ほどで催告書・督促状が届きます。
- ローン滞納から3~6ヶ月ほど経過すると期限の利益の喪失予告通知が届きます。指定日までに支払わない場合はローンを分割返済できる権利(期限の利益)を喪失させるという内容が書かれています。
- その指定日が、ローンを滞納したまま過ぎると、金融機関から期限の利益の喪失通知が届きます。指定日までに一括返済せよと書かれています。
- ローン滞納から7ヶ月ほど経ったところで、その指定日が過ぎますと保証会社が代位弁済(保証会社が保証契約に従って返済を肩代わりし金融機関に返済すること)を行ったことや、代位弁済した金額と返済日までの遅延損害金を自社に一括返済せよと書かれています。一般の銀行ですと保証会社(三菱UFJ銀行に対して三菱UFJ住宅ローン保証、三井住友銀行に対してSMBC信用保証など)が、銀行に対して代位弁済を行い、新たな債権者となってローンの借り手に対する求償権(肩代わりした借金の返済を請求できる権利)を得ることになります。この権利を求償権と言います。
- ローン滞納後8ヶ月目では競売の申し立てが行われ、住宅の差押え通知書が届き、対象の不動産は差し押さえられます。
- 滞納9ヶ月目で競売開始決定通知が届きます。
- 滞納10ヶ月目で執行官による現況調査が行われます。
- その後3ヶ月ほど経過すると競売の入札が行われます。そして開札の日が来ます。
このようにローンの滞納を始めてから理論上は1年ほどで任意売却ができなくなります。
しかし、任意売却には債権者の同意が必要ですから、実際に競売の開札日が近くなってからでは、もう任意売却をすることは無理です。
保証会社に代位弁済をされてしまうと差し押さえに
ではいつ任意売却の決心をして申出ることがよいのでしょうか。
なるべく早い方がいいのですが、任意売却は滞納がないと行えません。
そうかといって保証会社に代位弁済をされてしまうと住宅が差し押さえられ、やがては競売にかけられる手続きがスタートしてしまいます(理屈上では競売の開札の直前まで任意売却が可能です)。
しかし、その前に任意売却を行えば、住宅の差し押さえ・競売による不利益を防ぐことができ、より有利な条件で住宅を売却することが可能となります。
ローン滞納から1ヶ月~5ヶ月くらいで任意売却の決断を
そこで、ローン滞納から1ヶ月から5ヶ月目くらいで決意して任意売却をすることにして行動を起こせば、代位弁済や差し押さえの前に行動を起こすことになります。
差押さえは、登記されるため、登記簿を見れば買い手にも事情がわかってしまいます。
差押さえの登記を見て、買い手に「売り急いでいるな」と察知されて買い叩かれることになりますから、できれば差押さえをされる前に任意売却の申出をすることが望ましいと思います。
ですから、まずは、ローン滞納1~5ヶ月の間に、機構などの金融機関と状況を相談することが望まれます。
ローン滞納7ヶ月目で代位弁済通知が届き、保証会社が競売に向けた手続きを開始すると、任意売却はまだ可能ですが、残りの時間がどんどん少なくなってきます。
ローン滞納9ヶ月目くらいになると、解決の選択肢は狭まってきますが、まだ任意売却は可能です。
滞納10ヶ月目で執行官が来るときは鍵を壊してでも強制的に家の中に入ってきて、写真を撮られたりします。
ネットにも住所や撮影された写真などが掲載されてしまいますのでローンの借り手にはストレスがたまります。
また、周囲にも住宅ローンが払えなくなっていることがわかってしまいます。
先にも記載しましたように理論上は競売の開札直前までは任意売却は可能ですが、滞納開始から1年ほどで任意売却ができなくなってしまいます。
専任媒介契約または専属専任媒介契約との締結について
不動産業者との仲介契約は通常の場合でも、上記の2種類に加えて一般媒介契約という種類があります。
専任媒介契約
仲介を1社の不動産会社に依頼する契約。売り手が直接買い手を見つけてきてもよい。仲介会社は2週間に1回以上販売活動状況を売主に報告する義務があります。機構には月1回の報告となります。
専属専任媒介
契約:仲介を1社の不動産会社に依頼する契約。売り手が直接買い手を見つけてくることも禁じられます。仲介会社は1週間に1回以上販売活動状況を売主に報告する義務があります。機構には月1回報告です。
一般媒介契約
売り手は何社の仲介会社と契約してもよいという契約。任意売却においては、住宅金融支援機構はこの契約は想定していません。
内覧がスムーズに行くように協力
ローンの借り手にとってもなるべく物件を高く売って、返済額を多くし、残債務を少なくすることが利益となります。
そのため、買い手が内覧に来るときはきれいにしてなるべく明るい雰囲気を作ります。
利害関係人(差押債権者・後順位抵当権権者)に確認
固定資産税等の税金の未納が続いている場合は、国や地方公共団体が差押さえをしているケースがあります。
また、後順位抵当権者は債権額を全額返済されることは期待できないため、任意売却に同意しないケースもあります。
そのため、抵当権を解除してもらうために担保解除抹消料(通称 ハンコ代)を支払う必要が生じる場合があります。
機構が抵当権抹消の可否について審査
本来は売却と同時に債務を全額返済しなければ金融機関は抵当権を解除しませんが、任意売却することを承諾した債権者は財債務が残ってしまう売却でも抵当権を抹消します。
ただし、任意売却をすれば、借金がゼロになるわけではありません。
残債は残ります。
この残債務は任意売却を行った後も返済していかなければなりません。
ただ、その金額が金融機関との協議で減額される場合や返済が延長されるなどする場合があります。
任意売却のメリットとデメリットの整理
任意売却のメリットとデメリットをここで整理しましょう。
メリット
- 住宅を市場価格に近い価格で売却できます
- ローン残債務を減らせる。さらに残債務の減額や分割交渉が可能
- 引っ越しの時期を柔軟に交渉できます。買い手によっては賃貸として住み続けることも可能な場合があります
- 交渉で債権者から引っ越し資金を一部受け取ることができます
- 住宅ローンが返済できないことが親戚や近所、会社の人にバレる心配がありません
- 手元からの持ち出しの費用がありません
- 任意売却の期間中は返済の必要もなく、住み続けることも可能
デメリット
- 滞納することが必要。 任意売却をするにはまず債務者がローンが払えない状態、いわゆる滞納していることが条件となります
- 債権者の同意が必要。 残債(残債務)よりも低い価格で売却してもいいかどうか、債権者の承諾が必要になります
- 連帯保証人に迷惑がかかる。ローンを滞納すると連帯保証人にも請求が行くことになります。連帯保証人にもの任意売却することを同意してもらう必要があります。
- 競売の危険性 。任意売却を開始しても買い手がつかなければ任意売却は設立しません。自宅が売れなければ競売になってしまうというリスクがあります。
- 信用情報にのる。住宅ローンを3ヶ月以上滞納した場合は信用情報機関に登録されてしまいます。今後5〜7年程度は大きなローンは組めなくなってしまいます。
まとめ
できれば避けたい住宅ローンの滞納ですが、もしそうなってしまっても打つ手はあります。
あきらめずに任意売却も選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。