権利書を紛失してしまったら売却はできる?
権利書は普段使わないので、どこかにしまっておいて紛失した・・・なんて方もいるのではないでしょうか?
そんなときどうすればいいか、また、そもそも権利書とはどんな役割のものなのかを解説していきます。
権利書ってなに?
まずは権利書自体の意義から開設します
権利書の正式名称は「登記識別情報」
「不動産を売却する時には『権利書』が必要」とお聞きになったことがあると思います。
2004年の不動産登記法が改正される前までは、登記が完了すると不動産の権利者には「登記済証」が交付されました。
「登記済証」は抵当権でも賃借権でも登記をすれば必ず発行されます。
このうち、特に所有権の登記済証のことを一般的に「権利証」や「権利書」と呼んでいます。
上記法律の改正後は、「登記済証」を交付される代わりに「登記識別情報」が通知されます。
この「登記識別情報」は不動産の権利者しか知らないことになっていますから、キャッシュカードの「暗証番号」と同じようなものです。
そして、不動産の売却の際や抵当権の設定や抹消のときに「権利書(所有権の登記済証または登記識別情報)」が必要となります。
昔に交付された「登記済証」は今も有効ですから捨てないで大切に保管してください。
権利書はいつ渡す?
権利書は不動産の移転登記の申請が必要となる時や抵当権の設定または抹消の登記申請の時に司法書士を通して法務局宛に提出します。
不動産の売却の局面に限りますと、権利書を渡すのは以下のタイミングです。
①売主として買主に不動産の移転登記をする時
②売主が買主から不動産の売買代金を得て、銀行などの債権者にローンの残債を全 額支払った後に不動産の抵当権を抹消する時
ということになります。
通常は、これらが同時に行われることが多いので権利書は1回司法書士に渡せば事足ります。
「登記権利者」と「登記義務者」について
登記申請書には「登記権利者」や「登記義務者」という項目があります。
ここで、この用語を用いてご説明します。
不動産の買主をA、売主をB (売主Bに対する)債権者(銀行など)をCとします。
場面 | 登記権利者 | 登記義務者 |
所有権の移転登記の申請 | 買主A | 売主 |
売主Bの抵当権抹消の申請 | 売主B | 債権者C |
売買で売主Bは所有権を失いますし、Bにお金を貸していた銀行Cは抵当権という権利を失います。
このように自分に不利な登記をする人のことを登記義務者といいます。
反対に買主Aや現所有権者かつ抵当権設定者であるBは自分に有利な登記申請をしますから、登記権利者ですね。
権利証を渡すのは、買主Aの所有権の移転登記の申請のときに、Bが登記義務者として現在の不動産所有権者であることを証明するため、と売主Bの抵当権抹消の申請の時に、今度は登記権利者として現在の不動産所有権者がBであることを証明するためということになります。
権利書は売買の最後に渡すのが通常
具体的にいつ権利者が手渡されるのでしょうか?
売主が権利証を買主側の司法書士に渡すのは不動産の売買における最終局面、つまり支払い代金決済が完了し、不動産の引き渡しを行う時です。
支払い代金決済と不動産引き渡しは同時に行われます。
その際には、売主が、売買代金の全額または残りの全額が振り込まれたことを確認してから、買主側の司法書士に所有権移転の登記のための必要書類一式を渡すことになります。
この中に、「権利書」が含まれているのです。
買主側の司法書士はこれらの書類をすぐに法務局に持参して、所有権登記の移転の申請をすることになります。
売買契約を締結する時は、売主は確かに不動産の所有者だと言うことを明確にするために見せてくれと言われて見せることはあっても買主側に渡すことはありません。
移転登記は代金決済、引き渡しの後に行われるからです。
登記申請に権利書が必要な理由
なぜ権利書が不動産の売却や抵当権の設定の時に必要なのでしょうか。
法務局としては、権利の変動を登記するわけですが、現在の所有者しか持っていないはずの「権利書」(過去の所有権移転の証(あかし)である「登記済証」または「登記識別情報」)が提出されればまず間違いなく、所有者本人から提出されたものだろうということが確認できますから、登記を進めることができるわけです。
権利書の意味
このように登記申請の時に必要な権利書はどの程度に重要なものなのでしょうか。
不動産取引にとっての「権利書」は命の次に大事なものだとか、火事や津波の時にも持って逃げなければならないとか、ヤクザが借金のカタにとっていくとか言いますが、実はそんなことはありません。
「権利書」と「所有権」は別もの
権利書=所有権そのものではありません。
所有権をはじめとした不動産の権利者であることは「登記」によって証明されるのが登記制度ですが、権利書がなくてもそのことを証明する手段は他にもあります。
権利書はあくまで以前に登記が行われたことを示しているものであって、権利書としての書類を所有していることによって不動産の所有権が与えられている訳ではありません。
ですから、火事や津波の時は、「どうしよう、権利書を持ち出せないと家や土地を失うことになる!命に換えても持ち出さなければ!」と思う必要はないのです。
それに、実務上登記申請の際には、権利書だけでは足りず、実印と印鑑証明書がセットで必要です。
ヤクザが権利書だけ持ち去っても登記はできません。.
しかし、実印と印鑑証明書がセットされれば権利書で所有権の権利者であることが法務局に対して簡便に証明できますから、無くさないにこしたことはありません。
権利書は再発行もされません。やはり権利書は大切に扱うべきでしょう。
もし権利書を紛失していたら
そうは言っても、相続などで得た土地やその他の理由で権利書がない場合もあるでしょう。
相続のときは権利書は不要
相続のときは権利者は死亡していますから、印鑑が押せません。権利書は不要です。相続登記が終われば実際に相続した相続人に対して登記識別情報が発行されます。
相続以外で権利書がない場合
そのときは、権利書がなくとも、自分が真の所有者であることを証明すれば良いわけです。
方法は3つあります。
権利書を紛失した場合
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- 事前通知書
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- 資格者代理人(司法書士)よる本人確認証明情報を提供してもらう
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- 公証人に依頼して認証してもらう
事前通知書
売主が買主と共に、権利証がない状態で登記申請書に権利証を提供できない理由を記載して、そのまま登記申請を行います。
すると法務局から本人限定受取郵便で売主宛に事前通知が届きますから、この通知書に売主は実印を押して返送します。法務局は間違いなく本人が自らの意思で登記申請を行っているのだと確認できます。
この方法は、費用がかからないことが長所ですが、代金決済と登記申請のタイミングがずれることが欠点です。
例えば、買主が代金を支払って登記申請をしたのに、売主にて事前通知制度を選択したにもかかわらず、なかなか印鑑をついてくれなかったとしたら「登記申請が却下されてしまうのではないか?売主が自分以外の買主に売ってしまうのではないか?」と買主は不安になります。
逆に、登記申請を先にすることにして、売主が事前通知制度で印鑑をついて法務局に送ったのに、買い主が代金を支払ってくれなかったら?このとき、売主は不安になります。
そのため、不動産の売買の場合は司法書士はどの人も、この制度を推奨しません。この制度が使いやすいのは、親子間での贈与とか住宅ローンを完済した場合の抵当権抹消登記のときなどに安心して使える制度といわれています。
資格者代理人(司法書士)よる本人確認証明情報を提供してもらう
司法書士に直接面談してもらい、名義人本人に間違いないことを確認した上で、「本人確認情報」を作成してもらいます。この本人確認情報を登記申請書と一緒に法務局に提出します。
不動産の権利変動は非常に重要ですから、司法書士が慎重に確認します。
もし、司法書士がいい加減な本人確認をして虚偽の情報を提供したら、不動産登記法第160条で、罰則(2年以下の懲役又は50万円以下の罰金)を科されることになっています。司法書士の責任は重大ですから、費用が発生します。
だいたい数万円から、場合によっては10万円以上の費用がかかる模様です。
公証人に依頼して認証してもらう
公証人役場で、本人確認の証明をしてもらって、公証人の認証した文書を登記申請書と一緒に法務局に提出します。
売主が印鑑証明書や実印、運転免許証と認証文をつける(司法書士に対する)登記申請の委任状を持って公証人役場へ行き、公証人の前で署名捺印します。
この場合、公証人の手数料は1万円以内です。
費用が少なくて済むので司法書士や不動産業者の一部でもこの方法を推奨する方がいますが、司法耆士の本人確認と比較すると、大雑把なやり方であるとされており、②の司法耆士による本人確認証明ほどは多く使われていないようです。
権利書紛失が発覚したとき
登記識別情報を無くしてしまったら、「登記識別情報の失効申出」という制度で無効にできます。
無料です。
但し、再発行はありませんので、不動産を売却する時は、先述の事前通知か司法書士または公証人の本人確認の制度を活用することになります。
不動産の売却の場合、権利書も登記情報識別情報も無くした場合は、かなりの費用と手間がかかりますからやはり大切に保管しましょう。