投資用ワンルームマンションの売却の仕組みと対策
いわゆるワンルームマンションを売却する場合ですが、売却の仕組みを知っておくことで、強気に売り出しすることができます。
ワンルームマンションの売却の場合、売出しの価格設定がかなり大事です。
そこで考えるべきが誰が買うのか、ということです。
ワンルームマンションを買うのはどのような人でしょうか?
相場よりも高く売りたいと考えた場合、どのような対策を取るべきでしょうか?
詳しく解説していきます。
マンションを「オーナーチェンジ」で売却する仕組み
いわゆるオーナーチェンジです。
まずは仕組みの部分から解説していきます。
投資用マンションは一体どんな人が買うのか?
投資用マンションの場合、ほとんどが不動産業者の買取り転売となるでしょう。
個人投資家が購入する場合もありますが、ケースとしては少ないでしょう。
実はワンルームマンションを購入する人は不動産投資初心者という場合が多いです。
また、ワンルームマンションを購入してもキャッシュフローがほとんど出ないことと、ワンルームマンションを保有していると次の物件購入の融資が出にくくなることから、投資としては敬遠されがちなのです。
そのため、比較的人口の多い都心部近くで、まずは少ないリスクでやりたいというような投資初心者をセミナーなどで集客して、不動業者が再販することが多いのです。
売却価格の相場は利回りで決まる
利回りという言葉をご存知でしょうか?
解説すると、投下した資金の回収率のことで、1,000万円で購入した物件の年間の収入が100万円であれば、10%の回収なので「利回り10%」と表現します。
物件の性格として完全に収益物件に特化していますから、見られるところは「どのくらいの収入が見込めるか」の一点です。
相場は利回り、金融機関の評価、築年数と構造で決まってきます。
最重要指標の利回り
投資用マンションの場合、買い手はほとんど物件を直接見ることはしません。
入居者がいることが普通ですから中は見ることができません。
そのため、外観を見るくらいです。それよりも資料をよく読んで投資を判断します。
その中でも特に重要な項目は利回りです。
ここでいう利回りは表面利回り(年間の賃料合計を物件価格で割ったもの)ではなく、期待利回りと取引利回りです。
期待利回り
投資価値の判断に使われる還元利回りを指します。
通常は、純収益(NOI,Net Operating Income)を期待利回りで割ったものが投資価値(投資家が投資してもよい、買ってもよいと考える価格)になります。
「各投資家が期待する採算性に基づく利回り」です。
取引利回り
市場での還元利回り。
純収益(NOI)を市場価格で割ったものを指します。
「投資家が実際の市場を観察して想定する利回り」です。
買い手としての投資家としては「期待利回り」で(割安に)買いたいが、市場価格ではそれよりも割高に(「取引利回り」で)買わざるを得ない、ということです。
売り手としては、この取引利回りを下回って(価格は高く)売ることができると良いわけです。
純収益(NOI)とは、年間家賃収入から、固定資産税、火災保険料、管理費、修繕費、その他各種手数料を引いたものになります。
東京都内の利回り水準
この利回りは、例えば、日本不動産研究所の2018年10月に行われた調査を見ますと、東京目黒区・世田谷区などの城南地区では、期待利回りが4.4%、取引利回りは4.0%に、墨田区も江東区などの城東地区では期待利回りが4.5%、取引利回りは4.2%となっています。
住宅の種類は、最寄り駅から徒歩10分以内、築5年未満、平均専有面積25〜30㎡、総戸数50戸のワンルームのケースの平均値です。
物件価格の推移は上昇傾向
この期待利回りも取引利回りも2009年以降、期待利回りが一貫して下り続けています。
つまり物件の資産価格が上昇しているのです。
しかし、このトレンドがいつまで続くかは何とも言えません。
東京以外の都市の利回り水準はどうか
東京以外の都市の(期待)利回りは上の表に一部出ていますが、他都市も含めると次の通りです。
取引利回りは期待利回りから0.3〜0.4%低いところにあると考えておけば良いでしょう。
ワンルームの場合は、この利回りが最も大切な要素で、トイレをウォッシュレットにしたなどのバリューアップはないよりもあった方が良いですが、売却に際しては二次的な要素となるでしょう。
この利回りに最も影響する要素としては、物件が所在する都市名・立地・交通アクセスです。その他は部屋の大きさや築年数となります。
表をご覧いただいてもお分かりのように、都市ごとに利回りが異なっています。利回りが低いということは同じような建物の物件でも相対的に高く取引されているということです。
そして、実際の売買交渉の場面では、利回り水準を基本として交渉し、さらに、テナントの入居状況の実績と賃料水準の実績を示すことです。
金融機関の評価次第で価格が決まる
買い手である転売を前提とする業者としては、次に転売するにあたり最終的な購入者が金融機関から融資を受けることを前提に購入します。
また、あなたから直接個人投資家が購入する場合もローンを利用して買う場合が多いでしょう。
そのため、金融機関の評価が重要になります。
金融機関ごとに評価の仕方は異なりますが、担保価値の計算でよく使用されるのは土地と建物を別々に計算してから合算する積算価格です。
例を用いて説明します。
金融機関の担保評価の計算例
敷地面積 | 1,500㎡ |
土地持分割合 | 100/10,000 |
相続税路線価 | 30万円/㎡ |
建物構造 | 鉄筋コンクリート造(再調達単価20万円/㎡・法定耐用年数47年) |
専有面積 | 27㎡ |
経過年数 | 10年 |
この例の場合ですと、次の計算方法によって積算価格が1,325万円と算出されます。
この担保価値に基本的には0.7〜0.8の掛け目をかけて金融機関は融資を行うわけです。
計算方法
土地の積算価格「900万円」
計算式:路線価30万円/㎡×敷地面積1,500㎡×持ち分100 / 10,000
建物の積算価格「425万円」
計算式:再調達単価20万円/㎡×専有面積27㎡×(法定耐用年数47年-経過年数10年)÷法定耐用年数47年
積算価格「1,325万円」
計算式:土地の積算価格450万円+建物の積算価格425万円
注意事項
土地の価格の算出にあたり、相続税路線価(おおよそ工事価格の8割)を使用していますが、公示価格(または基準価格)を使用する金融機関もあります。
再調達単価は、新築した場合の工事費です。
この数字も金融機関毎に異なりますが、ここでは20万円/㎡としました。
耐用年数としては、鉄筋コンクリート造は47年、鉄骨造は34年の税法の法定耐用年数を用いています。
そのため、ご自分の物件が鉄骨造の場合は計算結果が変わりますのでご注意ください。
銀行が融資しない物件は売れない
金融機関が融資をできなければ、いくらキレイな物件であっても著しく市場価格は低くなります。
そのくらい金融機関の評価は重要なのです。
築年が経過するとマンションは売りにくくなる
古くなると価値が下がるというイメージは一般的なものかとは思いますが、マンションは100年使えると言われる程、利用は問題ない場合がほとんどです。
では、なぜ売りにくくなるのでしょうか?
金融機関の評価も関係する
築年数がマンションの価格算定で重要であることは、先の金融機関における積算価格の算定において、耐用年数に至るまで毎年減価して行くことになることからわかります。
なお、ここで用いるべき耐用年数は、本来、経済的耐用年数であるべきですが、税法の法定耐用年数をそれに代替して使用しています。
設備の劣化も価格に影響する
現実的にも、建物の基本構造や雨漏りの補修、外壁補修については多くの場合10年の施工会社の保証が付くため安心ですが、それ以降の補修工事は所有者の自己負担になってしまうため、マンションは管理面で10年で大きな節目がくると言えるでしょう。
また、築後15年となりますと配管など設備類の更新も増えてきます。
そのため、高値で売却をする場合は、できれば築10年以内に売却することが望ましいと思います。
なお、施工会社の工事保証は最初の購入者には適用されますが、転売された場合は以降保証しないと記載されていることがありますので、売却の際にはよく確認してください。
ワンルームマンションを高く売るには
では具体的に、ワンルームマンションを高く売却するにはどうすべきかを解説していきます。
仲介会社選びが重要
ワンルームマンションの仲介に手慣れていて、高く売ってくれそうな会社を選びましょう。
大手の仲介会社でもワンルームマンションの売買に慣れているとは限りません。
誰を対象に売却活動をするかで数百万の差に
不動産投資にかなり慣れている玄人の投資家では、売買の価格水準が極めて厳しいと言えます。
市場価格よりかなり低めの設定の価格帯でなければ、なかなか買ってはくれません。
そのため、多数の投資家を相手に営業をしている仲介会社だからといって高く売れるということでもないのです。
不動産価格を決めるにあたっては正解はありませんから、初心者には割高でも買って満足してもらえることが多いと思います。
逆にプロは高く買うことはありません。
不動産投資家の考えを知っておくと売買も有利に
例えば、利回り3%で取引される可能性がある地域ですと、それよりも高い利回りで購入できれば購入した時点でほぼ利益が確定します。
そのような場合、不動産投資のプロは例えば5%の利回りで購入して、早めに3%で売り抜けようとします。
純収益100万円の物件の利回りと価格
100万円 ÷ 0.05 = 2000万円(利回り3%)
300万円(利回り5%)- 2000万円(利回り3%) = 1300万円(利益の想定)
少々難しいですが、上記のように計算して、不動産業者や不動産投資のプロは購入を決めているのです。
安定して賃料が入ってくるかどうかを説明すべし
今の入居者がいかにキチンと賃料を支払ってくれて安定しているかということは、購入者にとってかなり重要なポイントです。
また、仮に今の入居者が抜けてもこの物件ならすぐに埋まりそうであることは説明しておいた方がいいです。
これには立地、築年が大きく影響するでしょう。
大都市の駅から至近であることや買い回りが便利などの条件が揃っていることや、また、大学が近く、学生が借りてくれそうであることなど好条件が整っている場合、そのことを強調します。
一旦入居者が抜けると稼働率が0%になってしまいます。
そのリスクがいかに小さいかということを強調します。
今の入居賃料が相場通りかどうかもポイント
賃料が相場並みで維持できそうであることも伝えておいたほうがいいです。
すでにいる入居者の賃料が周辺の相場と比べてどうかなども説明します。
購入者は、高すぎると「将来、相場並みに下がるのではないか」、低すぎると「不動産に何か問題があるのではないか」と考えるものです。
ですから(調査した上で)相場並みであると説明しましょう。なお、賃料は新築から10年で1割程度下落し、その後は横ばいか緩やかな下落基調になると考えておけば良いと思います。
維持管理費はどの程度必要かも伝えるべし
これは必ず聞かれますので、外壁などの大規模修繕の計画があるかないか、マンションの管理組合総会の議事録などで調べましょう。
専有部分の修繕記録を見せることも必要です。
投資用マンションを売却する時の注意点
購入者も高い買い物ですので慎重になるはずです。
そのため、相手にマイナスな印象を与えないようにすることが大事です。
書類は必ず揃える
必要な書類を残さず揃えるようにしましょう。
修繕記録、管理組合の総会決議の記録、マンションの管理規約、固定資産税評価額、その他購入時の資料は必ず捨てずに持っておきましょう。
室内の写真や様子が分かる書類もあれば
入居者が入居しているため、内覧ができません。
そのため、買い手には外観だけをみていただき購入を判断していただくことになります。
そこで、買い手には入居前に撮っておいた写真を見せることになります。
時系列的にかなり前の写真になるかもしれませんが、購入者にはイメージがわくと思います。
そもそも売るべきか貸し続ける方がいいのか
ここまでは売却を中心にご説明してきましたが、持ち続けるという選択肢はないのでしょうか。
生命保険代わりに持つべき?
ワンルームマンションは団体信用生命保険がついていますから、持っていれば万が一に備えた家族のための保険にもなります。
また、この低金利下で銀行預金にしておいても金利はほとんどつきません。
不動産投資以外の投資、例えば株式に投資をすることを考えても2018年の暮れに大幅に株式が下落したようにリスクがあります。
そう考えると持ち続けて数%の利回りを得続ける方がよいという考えもあります。
金利が上がると支出が大幅に増えることも
ですが、大きな目で見るとこの低金利・金融緩和がいつまで続くのか不安が残ることも確かです。
米国は金融緩和を止め利上げを開始しました(2018年暮に米国株式が下落したため、2019年は利上げを小休止しそうですが)。
欧州も金融緩和は止めました。日本も国の抱える借金が膨大に膨らみ続けており、消費税を導入しても焼け石に水のような状態ですから、いつか金融緩和の時代が終わることは間違いありません。
金融緩和後は物件価格が暴落の可能性も
金融緩和の時代が終わり、金利が上がり始めるとどうなるでしょうか。
長期国債の利回りというリスクフリーの金利水準に、不動産のリスクプレミアムが乗っているのが不動産の利回りですから、単純に言いますと、金利が1%上がるとワンルームの運用利回りが4.0%だったものが5.0%となります。
すると純収益が変わらなくとも、売却しようとした場合、物件価格が20%も下落するのです。
年収100万円の場合の計算式の例
利回り5%の場合:100万円 ÷ 5% = 2,000万円
2,500万円 – 2,000万円 = ▲500万円(20%)
流動性が低い=すぐに売れない=古くなる=安くなる
そして不動産は流動性が低いという特性があり、ただちには売れません。
買い手も物件価格が下落基調となれば、価格が下がりきるまで手を出さないようになります。
そうなった時の対策として、仮にワンルームマンションの所有者が、次の金融緩和の時期まで待つこととし、長期保有と決め込むとします。
ところが、株はいつか回復する期待がもてますが、株と違い不動産の場合は建物の経年劣化がありますから、支払い金利は上がる、修繕費はかさんでくる、おまけに賃料は建物の自然損耗などで賃貸市場での競争力が落ちてきますから下がってくる、などのかなりの困難に見舞われることになります。
ワンルームマンションは金融緩和時や経済の好調時には非常によい投資ですが、そうした環境が変化するとリスクが高い投資です。
そのため売り時を逃さないように、注意をしましょう。